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「寄生虫なき病(やまい)」 [医療・健康]

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 文藝春秋、2014年刊。原著は2012年刊。
 著者は、アメリカのモイゼス・ベラスケス=マノフさん。

 アマゾン盆地の西端に住むチマネ族という単純農耕民族では、自己免疫疾患がとても少ない。
 12,000人のうち、過去100年間で喘息にかかった人は一人もいなかった。
 白斑が11例、狼瘡が1例、関節リウマチが1例で、チマネ族の自己免疫疾患有病率はニューヨーク市民の10分の1である。

 チマネ族の人々は、ほぼ全員が鉤虫(こうちゅう)という寄生虫を腸内に持っている。
 チマネ族は微生物や寄生虫がうようよいる環境で暮らしている。
 不潔な環境で生活している人々の方が、アレルギー疾患や自己免疫疾患のリスクが低い。

 免疫系は本来、こうした環境に立ち向かうために進化してきた。
 しかし、清潔すぎる環境で免疫系が活躍する場がなくなると、免疫系は混乱してしまい、本来攻撃すべきでない細胞を攻撃してしまうのである。

 ヒトは生後間もなく、自己免疫細胞を持つようになる。
 その後、自己免疫細胞を抑制する細胞をも持つようになる。
 ヒトは、自己免疫細胞と抑制細胞がバランスを保つことにより、健康を維持する。
 抑制細胞は、特定の寄生虫や微生物の接触した後に、出現する。
 そうした寄生虫や微生物との接触がないと、抑制細胞が十分に作られず、自己免疫細胞の暴走を許すことになる。

 自己免疫疾患が増え始めたのは1960年代のことである。
 クローン病、多発性硬化症、1型糖尿病、喘息など、いずれもその後、急激に増え続けている。
 こうした疾患の有病率は、国によっても大きく違う。
 豊かな国の国民であるほど、あるいは同じ国の中でも社会的階層が高い人ほど、発症のリスクが高い。

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 クローン病は消化管のあらゆる場所で炎症を起こす病気。
 炎症が大腸にのみ現れるのが潰瘍性大腸炎である。
 1999年、アメリカの研究者は、クローン病患者4名並びに潰瘍性大腸炎患者3名に対して、ブタ鞭虫の卵2500個入りの液体を3週間に一度、継続的に飲ませるという試験を行った。
 その後、さらに被験者数を増やして臨床試験が継続され、40パーセント以上の患者に症状の改善が見られ、重大な副作用は現れなかった。

 こうした試験結果に基づき、ドイツの製薬会社がブタ鞭虫卵製剤を発売した。
 この薬を使用した治療費は1年間で7800ユーロ(1百万円)と高額であるが、治療の難しい難病とみられていたクローン病や潰瘍性大腸炎に効果を示した。

 アレルギー疾患も、人間の生活が清潔になったことによって不要化した免疫系の活動が継続している状態である。
 アレルギー疾患の予防や治療のアプローチとして、免疫グロブリンE(IgE)の感応性を意図的に高める、例えば人為的に寄生虫に感染するなどの方法がある。

 免疫グロブリンEという抗体は、花粉症の症状、食物アレルギーの蕁麻疹や気道狭窄などを引き起こす。
 この免疫グロブリンEは寄生虫感染が蔓延していた時代に、寄生虫に感染しても悪影響を受けないようにする機能を有した。
 例えば、免疫グロブリンEの値が高い人の寄生虫は,体が小さく、数も少ない。
 寄生虫と戦う武器として人体に備わった機能は、それが本来の目的を果たせる環境に置かれている限りは、ほとんど何の問題も起こさない。

 しかし、寄生虫が身体からいなくなると、免疫グロブリンEが悪さをすることになる。
 寄生虫が体内に入ると、レギュラトリーT細胞が増える。
 このレギュラトリーT細胞が、アレルギー反応の発生を防ぐ。
 人によっては、レギュラトリーT細胞を十分に持っている人がいる。
 しかし、そうでない人も多い。
 レギュラトリーT細胞を十分に持っていない人は、寄生虫の刺激がないとレギュラトリーT細胞が増えない。

 寄生中であればなんでもいいというわけではない。
 日本人に多いアニサキス症(生魚を食べることで感染する寄生虫症)は、人間の体内に入ると命の危険さえある重大な症状を引き起こすことがある。

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